吸血鬼パロを書こうとしてモノローグで終わってしまったもの。
その違和感を覚えたのは、最初からだった気がする。
僕があの男に半ば弟子入りのような就職話を持ちかけた、始まりの始まり。
僕の申し出に、彼はまず驚いた顔をして、それから何かに呆れるような、それでいて嬉しそうな――今思うといかにも彼らしい喜びのしかただった――顔をして、そして最後にふっと顔を歪めた。
考えさせてくれとその日は家に帰され、結局翌日には雇用成立の電話がかかってきたわけだが、そのどうにも言い様のない苦しそうな表情は時が過ぎてもずっと自分の頭の片隅でくすぶり続けていた。
それは彼の壮絶な過去を又聞きして、また実際に彼にまつわる武勇伝の数々が呼び寄せた事件の一端に関わってもなお、消えゆくことはなかった。
彼の人生は僕たちにとっては未だに謎のままで、多分この先も彼が進んで教えてくれるようなことは無いだろう。そう確信できるくらいには、僕らはあの人の傍で一緒に生きてきた。そして、もう一つだけ分かったことがあるとするならば、幾つもの後悔だとか幾つもの苦悩だとか、憎悪もあるのかな、とにかく計りがたい沢山の物語を、それでもあの人は背負って生きていく覚悟をしているということだ。それは僕たちにとっては大きな信頼の一つになったし、時に彼の心が折れそうになったとしても叩き直して支えることが出来る、そんな僕たちなりの自信にも繋がった。特に僕は、いかんせん他の二人と比べていざというとき役立たずになってしまうことも多いから――っていうか二人が異常なんだとは思うけど。
何ていうかな、あの人の僕に見せた一瞬の表情は、そんな覚悟を決めた過去に由来するものではないような気がしてしょうがないんだ。もっと頼りない――出来ることなら逃げ出したい、そんな感じ。
だから、忘れてしまえば良かったのに何となく気になり続けて、かといって聞く気にもなれなくて今日まで至るわけなんだけど、
「要するにどうにかしてその記憶を抹消してほしいってことアルな?」
「あのー神楽ちゃん、人のモノローグちゃんと聞いてた?」
「『くすぶり続けていた』まで聞き流せれば十分ネ! ほあちゃああああ!」
「うわわっ! ってコイツ一片足りとも聞いてねーよ! そうじゃなくて、どうにかして銀さんの秘密を暴きたいって話!」
夜兎渾身の空手チョップの前に奇跡の生還を果たしてぜえぜえとツッコミに息を切らす僕に対し、神楽ちゃんはテレビのチャンネルをいじりながら、でも新八、と後を続けた。
「もしそれが銀ちゃんの昔の話だったとしたら、私達銀ちゃんに怒られちゃうかもしれないヨ? それ以前に絶対気まずくなるアル。やぶ蛇って奴ネ」
「いやそれもモノローグで触れてるんだけど……」
それでも、この一連の考察はあくまで僕の主観であって確かなものじゃない。銀さんならまだ僕らが全く知らない過去のエピソードの一つや二つ簡単に出てくるだろうし、その中にはまだ銀さんにとって清算が出来てないものだってあるかもしれない。またあの男のことだ、最大限の憂いの表情の裏では次の日の甘味にありつくためのバイトの日程を構築していた、なんてオチでも僕は十分納得がいく。
そう、その表情一つだけだったなら、だ。
銀さんは、よく僕らに何も告げず家を空ける。
その多くはパチンコだったりこっそりファミレスに行ったり一杯飲みに行ってたり、ダメな大人の典型みたいな理由からだ。